一般社団法人 全日本カイロプラクティック学会
松本吉正 松本清香 吉野俊司 長尾正博 山崎善秀

【目的】

カイロプラクティック(以下C.P.)の臨床では姿勢変化により頭部血流や神経活動に変化が生じる場合がある。
C.P.で姿勢改善し、認知機能に回復が見られた一症例を報告する。

【方法】

Mさん80歳、男性、無職、主訴:姿勢の傾きと物忘れ。
X-2年に退職。X-1年から右視力と嗅覚の低下と、体幹が右側屈しはじめた。X年2月に物忘れ外来を受診し軽度認知症状と診断された。病院の治療方針は認知機能の回復は目指さず投薬で進行を遅らせ経過観察。本人に自覚症状はなく、家族からの希望で翌月よりC.P.を開始。
頸部前傾と腰部後弯、体幹部右側屈、立位静止時に動揺あり。
施術時に姿勢分析器にて背面、側面と重心バランスを評価。また、月に一度、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の実施とI-ADLにて認知機能を介護有資格者より評価をうけた。

【結果】

姿勢の安定を目的にC.P.を週1回行った。
・初  回、体幹の傾き:右7.5°、重心:右31.0㎏左27.0㎏、HDS-R:17点、I-ADL:6点
・1ヶ月後、体幹の傾き:右4.3°、重心:右28.5㎏左29.5㎏、HDS-R:22点、I-ADL:5点
・2ヶ月後、体幹の傾き:右4.5°、重心:右31.5㎏左26.0㎏、HDS-R:21点、I-ADL:5点
・3ヶ月後、体幹の傾き:右4.5°、重心:右30.0㎏左28.5㎏、HDS-R:21点、I-ADL:5点

【結論】

C.P.によって、体幹の傾きが減少したことは姿勢改善したと考えられる。姿勢改善で脳脊髄の位置が安定したことが、HDS-Rの結果に影響した可能性があると考察する。その後の定期施術により改善が維持されていると考えられる。I-ADL評価に関しては認知機能のみで評価が変わるものではないと、介護有資格者より助言を受けた。
本症例では、C.P.施術による姿勢改善が認知機能向上の一助となった可能性がある。