カイロプラクティック教育 日本と海外の現状

(社)全日本カイロプラクティック学会(ANCA)
山崎善秀 長尾正博 松本清香 吉野俊司

【背景】

平成24年8月、独立行政法人国民生活センターより「手技による医業類似行為の危害」が発表された。その内容は「健康保持や疾病の予防・治療の目的で、マッサージ、指圧、整体、カイロプラクティックなど、施術者の手技による医業類似行為が広く利用されている」と前置きした上で「整体やマッサージ等、器具を使用しない手技による医業類似行為を受けて危害が発生したという相談が2007年以降の約5年間で825件寄せられており、件数は増加傾向にある」「手技による医業類似行為のうち、あん摩マッサージ指圧や柔道整復については法的な資格制度があるが、整体やカイロプラクティック等と呼ばれるその他の手技による医業類似行為については法的資格制度がないため、施術者の技術水準や施術方法等がばらばらである」(以上、国民生活センター発表の内容より抜粋)というものであった。
アメリカ発祥のカイロプラクティックは1895年にD.D.パーマーが創始して以来100年あまりの間に急速に世界中で普及されている。
一方、日本においては1916年に川口三郎氏によって紹介されて以来全国に普及しており、現在に至るまで施術者の数は2万人から3万人あるいはそれ以上とも言われている。しかし一世紀も経とうかとする2012年現在においても、日本では法制化(国家資格化)に至っていない。国内に数百あるとも言われる団体が玉石混交の状態であり、各団体の教育レベルも様々である。業界の統一及び教育スタンダードの確立がされていないのが現状である。

【目的】

カイロプラクティックが国家資格化されている海外の国とされていない日本との違いは何かを養成機関の種類、科目数、時間数について海外と日本の差異を検証することとした。

【方法】

海外に関しては、WHO関連団体であるWFCのホームページに掲載されている国別におけるカイロプラクティックの法的地位及びカイロプラクティック養成機関の中で、国家資格として認められている国の中から選択し、科目数や時間数について調査をした。
日本に関しては、iタウンページ(NTTが提供するインターネット版タウンページ2012年8月29日)に掲載されているカイロプラクター養成機関より取り寄せた資料を基に、養成機関の種類(大学、専修、専門学校、私塾)や科目数がWHOガイドラインの内容に準拠しているカイロプラクター養成機関を調査し、教育の現状を確認した。

【結果】

〈国別カイロプラクティックの法的地位…94か国〉
世界保健機関(以下WHO)の下部組織である世界カイロプラクティック連合(以下WFC)によると、2012年現在、法制化されている国(法的に基づき許可されている)が48か国にもなり、法制化はされていないが認知されている国の35か国を含めると、実に80か国以上でカイロプラクティックという医療が着実に広がり、受け入れられている。他にも、法制化されているかは不明だが認知されている国が9か国、法制化されているかは不明であり、訴訟の危険性がある国が2か国あると報告されている。

a.法制化されている国(法に基づき許可されている)… 48か国
ボツワナ、レソト王国、ナミビア、ナイジェリア、南アフリカ共和国、スイス、ベルギー、ジンバブエ、デンマーク、フィンランド、フランス、アイスランド、イタリア、マルタ、リヒテンシュタイン、ノルウェー、ポルトガル、セルビア、スウェーデン、イギリス、スワジランド王国、香港、フィリピン、タイ、キプロス、イラン、イスラエル、ボリビア、バハマ、バルバドス、カナダ、ケイマン諸島、リーワード諸島、パナマ、プエルトリコ、タークスカイコス諸島、アメリカ、オーストラリア、グアム、ニュージーランド、タヒチ、カタール、メキシコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、コスタリカ、グアテマラ、ニューカレドニア
b.法制化はされていないが認知されている国… 35か国
エチオピア、ガーナ、ケニア、モーリシャス、日本、マレーシア、シンガポール、エジプト、ジョルダン、クロアチア、エストニア、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルグ、オランダ、ロシア連邦、スロバキア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ベリーズ、バミューダ、英バージン諸島、ジャマイカ、米バージン諸島、トリニダード・トバコ、レバノン、パプアニューギニア、コロンビア、エクアドル、ホンジュラス、ペルー、ベネズエラ、フィジー、リビア
c.法制化されているかは不明だが認知されている国… 9か国
中国、インドネシア、ベトナム、ギリシャ、ハンガリー、スペイン、モロッコ、シリア、トルコ
d.法制化されているかは不明であり、訴訟の危険性がある国… 2か国
台湾、韓国

*世界カイロプラクティック連合(WFC)ホームページより

〈国別カイロプラクティック養成機関の科目数及び時間数〉
学校別時間数
【WHOガイドラインを満たした養成機関のある国…15か国(41校)】
世界地図国別

<オセアニア>
・Australia(オーストラリア 3校)
Macquarie University マッコーリ大学
RMIT University RMIT大学
Murdoch University マードック大学
・New Zealand(ニュージーランド 1校)
New Zealand College of Chiropractic ニュージーランド・カレッジ・ オブ・カイロプラクティック
<アジア>
・Japan(日本 1校)
Tokyo College of Chiropractic 東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック
・South Korea(韓国 1校)
Hanseo University ハンソ大学
・Malaysia(マレーシア 1校)
International Medical University 国際医科大学
<ヨーロッパ>
・United Kingdom(英国 3校)
Anglo-Europian College of Chiropractic アングロヨーロピアン・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
McTimoney Chiropractic College マクティモニー・カイロプラクティック・カレッジ
University of Glamorgan グラモーガン大学
・Spain(スペイン 2校)
Barcelona College of Chiropractic バルセロナ・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
RCU Escorial Maria Christina マリアクリスティーナ王立中央大学
・France(フランス 1校)
Institut Franco-Europeen de Chiropratique フランコヨーロピアン・カイロプラクティック・インスティテュート
・Denmark(デンマーク 1校)
University of Southem Denmark 南デンマーク大学
・Switzerland(スイス 1校)
Universitat Zurich チューリッヒ大学
<アフリカ>
・South Africa(南アフリカ 2校)
University of Johannesburg
ヨハネスブルグ大学 Durban University of Technology
ダーバン工科大学
<北アメリカ>
・United States(アメリカ 18校)
Cleveland Chiropractic College クリーブランド・カイロプラクティック・カレッジ
Los Angeles Campus ロサンゼルス校
Kansas City Campus カンザスシティ校
D’Youville College デュービル・カレッジ
Life Chiropractic College West ライフ・カイロプラクティック・カレッジウエスト校
Life University ライフ大学
Logan College of Chiropractic ローガン・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
National University of Health Sciences ナショナル健康科学大学
New York Chiropractic College ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ
Northwestern Health Science University ノースウエスタン健康科学大学
Palmer College of Chiropractic パーマー・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
Davenport Campus ダベンポート校
Florida Campus フロリダ校
West Campus ウエスト校
Parker University パーカー大学
Sherman College of Chiropractic シャーマン・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
Southern California University of Health Sciences 南カリフォルニア健康科学大学
Texas Chiropractic College テキサス・カイロプラクティック・カレッジ
University of Bridgeport ブリッジポート大学
University of Western States ウエスタンステーツ大学
・Canada(カナダ 2校)
Canadian Memorial Chiropractic College カナディアン・メモリアル・カイロプラクティック・カレッジ
Universite du Quebec a Trois-Rivieres ケベック大学トロイリヴィエール校
<南アメリカ>
・Brazil(ブラジル 2校)
Centro Universitario Feevale フィバーレセントラル大学
Universidade Anhembi Morumbi アンヘンビモルンビー大学
・Mexico(メキシコ 2校)
Universidad Estatal del Valle de Ecatepec エカテベックバリー国立大学
Universidad Estatal del Valle de Toluca トルーカバリー国立大学

*世界カイロプラクティック連合(WFC)HPより

海外の国々ではカイロプラクティックは法制化されており、各々が自国の教育スタ ンダードを有し、それがWHOガイドラインを満たした大学教育となっている。

〈日本におけるカイロプラクティック教育の現状〉

そこで、日本におけるカイロプラクティックの教育レベル(2012年全日本カイロプラクティック学会(ANCA)により発表)を踏まえ、iタウンページを “カイロプラクティック”で検索した結果11,169件の内、学校・スクール・カレッジ・学院・アカデミーを謳っている件数は189件あった。その内、教育機関として表記されている件数は102件であり、その中でも教育カリキュラムが明確に公表されている施設は9件であった。
WHOは2005年に「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン(以下WHOガイドライン)」を作成し教育基準を示している。
日本国内で基準をほぼ満たし、カイロプラクティック教育審議会(以下CCE)の認定を受けているのは1箇所である。
国内教育機関
県別教育機関数
しかし、日本ではカイロプラクティックを大学教育として行っているところは1校も存在しなかった。
今後、WHOガイドラインの要求する条件を満たしていない養成機関は追加教育により不足を補う必要がある。

【考察】

先進国を始めとして、海外の国々ではカイロプラクティックは法制化されており、各々が自国の教育スタンダードを有し、それがWHOガイドラインを満たした大学教育となっている。
一方、日本ではWHOガイドラインに準拠した養成機関は1箇所である。しかし、日本の教育法に基づく専修学校及び大学教育設置基準を満たすものではなかった。この点が日本においてカイロプラクティックが医療資源として検討され難い要因の一つであるとも考えられる。

【結語】

日本でカイロプラクティックが医療資源として検討されるためには、カイロプラクティックの養成機関は、WHOガイドラインの基準に準拠するようにカリキュラムの内容や時間数の充実だけではなく、専修学校及び大学教育設置基準を満たすことが必要であると考えられる。

【参考資料】

(1)独立行政法人 国民生活センター http://www.kokusen.go.jp/news/news.html
(2)世界カイロプラクティック連合(WFC)http://www.wfc.org/
(3)「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」  2006年 世界保健機関(WHO)発行

© 2012 All Nippon Chiropractic Association

日本におけるカイロプラクティックの教育レベル

(社)全日本カイロプラクティック学会(ANCA)
小野 久弥  松本 吉正  福岡 盟人  小川 美由紀
松本 清香  吉野 俊司  大槻 佳広  森田 全紀

背景

平成24年8月2日に、独立行政法人国民生活センターより「手技による医業類似行為の危害」 -整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-が発表された。
日本では現在マッサージ、指圧、整体、そしてカイロプラクティックなどは健康維持や疾病の予防・治療の目的で日本全国において広く利用されている。これらの手技療法はいわゆる器具を使用しない手技による医業類似行為であるが、その施術を受けての危害であると言う報告であり、その相談は2007年度以降の 5年間で825件も寄せられており、しかもその件数は年々増加傾向にあるということであった。以下のグラフはその受けた施術の内容と危害の件数である。
(このデータは国民生活センターに寄せられた、危害を受けた施術の内容である)

国民生活センター発表グラフ化

報告は上記グラフのような内容となっており、危害を受けた施術の内容は、危害の多い順番に7種類に分類されており、その中でカイロプラクティックは危害の多い順から4番目にランク付けされている。現在日本における、いわゆる器具を使用しない施術者の手技による医業類似行為は、法的資格制度があるあん摩マッサージ指圧や柔道整復とその他の手技療法の2つに大別されていて、器具を使用しない手技による医業類似行為はそれぞれ

  1. 法的な資格制度があるもの
  2. 法的な資格制度がないもの

に分類される。そして法的な資格制度があるものに関しては、あん摩マッサージ指圧と柔道整復が含まれる。
また、法的な資格制度がないものに関してはその他の施術(整体、カイロプラクティックなど)となっている。
法的な資格制度があるあん摩、マッサージ指圧及び柔道整復は、文部科学大臣認定校を、または厚生労働大臣の認定施設において3年以上の教育を受けた上で、国家試験に合格した者のみ業として行うことができる。また、施術所を開設する場合は、所在地の都道府県知事に届出が義務付けられている。
ただし、今回の危害の報告は法的な資格制度のある手技療法においても報告されている。
一方で、「日本では法的資格制度がない整体や、カイロプラクティック等、その他の手技による医業類似行為については、その法令がないために、いわゆる誰でもが開業、施術できる環境にある。したがって施術者の技術水準や施術方法は、ばらばらな状況にある。」(独立行政法人国民生活センター)
では現在の日本国内においてのカイロプラクティックの法的取り扱いはどうであろうか
以下の文章は、平成3年6月28日当時の厚生省医事第58号?医業類似行為に対する取扱いについて、各都道府県衛生担当部(局)長あてに当時の厚生省健康政策局医事課長から出された通知の中の「カイロプラクティック療法について」である。

「医業類似行為に対する取り扱いについて」

いわゆるカイロプラクティック療法に対する取り扱いについて
「近時、カイロプラクティックと称して多様な療法を行う者が増加してきているが、カイロプラクティック療法については従来その有効性や危険性が明らかでなかったため、当省に「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」のための研究会を設けて検討を行ってきたところである。今般、同研究会より別添のとおり報告書がとりまとめられたが、同報告においては、カイロプラクティック療法の医学的効果についての科学的評価は未だ定まっておらず、今後とも検討が必要であるとの認識を示す一方で、同療法による事故を未然に防止するために必要な事項を指摘している。こうした報告内容を踏まえ、今後のカイロプラクティック療法に対する取扱いについては、以下のとおりとする」とある。そしてその内容は(1)禁忌対象疾患の認識、(2) 一部の危険な手技の禁止、(3)適切な医療受療の遅延防止(4)誇大広告の規制、などについての項目に分類されており、第一に医師の明確な診断がなされているものに関しては、カイロプラクティック療法の対象とすることは適当ではないとされている。
しかしここで確認しておきたいのは、この研究報告は通称、三浦レポートと言われているもので、当時の厚生省が科学技術研究費を使い、三浦幸雄教授(東京医科大学)を含む7名の整形外科医に委託し調査研究した報告である。またこの調査は1989年ごろから約1年半かけて実施されており、報告は1991年3 月に答申された。厚生省はこの報告に基づいて1991年7月におおよそ同じ内容の行政通知を全国の都道府県衛生部に送付し、カイロプラクティックの安全性と有効性を認めないとする報告をした。しかしこの報告の内容は参考文献が一切なく報告書としては不十分なものであった。この三浦レポートが作成された背景には、おそらく世界基準の教育を受けてないであろう者がカイロプラクティック施術を行い治療事故が増えたためであったといわれている。当時この報告内容は各界からの大きな反響や批判を招いた。マスコミはその後数年間カイロプラクティックの危険性を強調した報道を行い、あん摩、鍼、灸業界は手緩いと強く批判し、カイロプラクティック業界はこの研究は人選・方法に問題があり、参考文献もない非科学的な「研究」であることを指摘した経過があり、その後現在に至って未だなんの進展もないままであるということである。
一方海外のカイロプラクティックに目を向けて見れば、カイロプラクティックはアメリカを起点とし、世界中に広まって行われており、およそ40の国や地域で法制化されている。またアメリカ合衆国、カナダ、ヨーロッパの数カ国では、カイロプラクティックはすでに法的に認識されていて、しかも公式な大学の学位が確立され、カイロプラクティック施術者であるカイロプラクターが、レントゲン診断や一部の医学的な診断さえ行うことが認められるなど、ヘルスケア・サービスとして社会的に認められ、公的または民間医療保険適用の医療としても認められ職業として規制されており、所定の教育基準が定められている。そして各承認機関の必要条件を満たした上での施術を行っているのが海外先進国の現状である。また最近では、アメリカでバラック・オバマ大統領がカイロプラクティックの重要性と必要性を謳うなどカイロプラクティックはその有効性、そして経済性効果が医療制度改革にも貢献している。
ところが日本においてはすでにカイロプラクティックは、全国に普及してはいるものの、日本国内にはカイロプラクティックの正規な業務や教育について規定する法律は確立されていない。したがって施術者個人、個人のカイロプラクティック教育に於いて、その内容に大きな隔たりがあり、医学教育についての浅学者や、カイロプラクティック哲学や倫理感の欠如、また技術不足、臨床実践不足者などが既に開業し、実際に施術に携わっているのである。そしてその危険性は異口同音に叫ばれていて、社会問題となってこの報告に表れている。

目的

カイロプラクティックが法制化されていない日本国において、カイロプラクティックが存在できる、また継続して施術が行えるのは、施術の効果はもちろんであるが、施術における安全安心が第一条件である。
本来なら患者の安全安心を担うはずのカイロプラクティック施術者(以降カイロプラクターと言う)による危害の報告を受けて、このたび、日本国内におけるカイロプラクターのカイロプラクティック教育レベルの現状を調査して、世界保健機関が2006年に発行した「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」とのカイロプラクティック教育レベルを比較して、日本におけるカイロプラクティックの教育レベル(教育機関の種類、科目数、時間数、修業期間)などの差異を明確にし、その解決策を考察する。

本論

「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」以降「WHOガイドライン」というにおけるカイロプラクティックの定義は、本来カイロプラクティックとは「神経筋骨格系の障害と、それが及ぼす健康全般への影響を、診断・治療・予防する専門職であり、関節アジャストメントおよび/もしくはマニピュレーションを含む徒手療法を特徴とし、特にサブラクセーションに注目する」とある。
*サブラクセーションとは「神経系の健全性に影響を及ぼす、関節の機能的、構造的、病理的関節変化の複合であってそれが各器官機能や健康全般に影響を与えるものである。」と謳われている。
言い換えれば、人体中にある200数個の骨と骨がなす関節のあらゆる原因からくる関節の変化は神経圧迫を起こし、それが病因になることが多いというものである。
これら関節の多種変化における健康全般に与える影響へのカイロプラクティック施術効果についてはこれまでに、多数の症例報告や、学術論文等が世界中で報告されている。そして海外の政府によるカイロプラクティックの法律がある国ではカイロプラクターと呼ばれている施術者は国で規定された必要条件を満たす教育や資格試験をクリアーしており、カイロプラクター個人についての安全レベルや医学的な専門知識は担保されている。しかし日本国内ではその施術効果が認められているカイロプラクティックを行う側である施術者の教育レベルについての詳細な調査報告は未だされていないのが現状であり、施術を受けるエンドユーザーの安全安心は決して保証されている訳ではない。
日本には現在、カイロプラクティックを規制する法律はない。日本には現在、自称カイロプラクターは2万人から4万人あるいはそれ以上いるとも言われておりその施術者が開業、カイロプラクティックの看板を掲げて施術を行なっているのが現状である。
WHOガイドラインは日本のようにカイロプラクティックが法制化されていない国々においての国民と患者を保護し、正規で安全なカイロプラクティックの実施を推進するために発行されたものである。
このWHOガイドラインが定めるカイロプラクティックの基礎教育内容は以下の表のように、すでにカイロプラクティックが法制化されている国と、日本のように現在は法律がないが、法制化を目指しながらカイロプラクティックの業者がいる国や地域においての許容できる最低限要求される教育である。
したがってその教育には、修業期間や教育総時間数、臨床教育時間などについて細かく定められている。またその教育内容においてはカテゴリーⅠ(すでに法制化されている国や地域での教育)とカテゴリーⅡ(法制化されていない国での教育)に分類されている。

whoの教育ガイドライン

カテゴリーⅠとは、正規なカイロプラクティック教育で、この教育は、先進国アメリカやイギリスなどカイロプラクティックについての法律がある国での必要条件を満たす教育である。
そしてそのカテゴリーⅠも(A)と(B)に分類されている。
Ⅰ-(A)については

  • 大学レベルの基礎科学で1~4年の予備コースの後、専門大学または総合大学での4年間のカイロップラクティックフルタイム教育。
  • 公立または私立大学で行われる5年間のカイロプラクティックの学士コースが組み込まれたまれた学士プログラム。新入生は大学入学資格を必要とし、大学の入学条件や募集条件に準じる。
  • カイロプラクティックの学士プログラムまたは適切な健康科学の学位を取得した後に2~3年の前専門修士プログラム。

Ⅰ-(B)については

  • 以前に医学および他のヘルスケア職業教育を受けた学生のためのプログラム。このコースでは、学生の過去の教育歴によって教育期間や科目要求が異なる。医師やその他の資格を持っている人への教育である。

カテゴリーⅡとは

  • 限定的なカイロプラクティック教育でカイロプラクティックを導入しているが、現在法律のない国や地域における医師やそれに類似するヘルスケア従事者に対する限定的なカイロプラクティック教育。これは正規の資格につながるものではない。そのような教育は、正規な教育を構築するための第一ステップ、すなわちカイロプラクティック導入のための一時的な措置であるべきである。そのようなコースは登録に必要な最低限のもので、当然、適切で正規なプログラムが実施可能になれば、ただちにそれに置き換えられるべきである。 従って現在の日本はこのカテゴリーⅡに該当する。

そしてカテゴリーⅡも(A)と(B)に分類されている。
カテゴリーII(A)

  • コンバージョン(転換)プログラムは、以前に医学および他のヘルスケア職業教育を受けた学生が 「限定的」なカイロプラクティック資格を得るためのものであり、便宜上構築されるべきで、パートタイムの教育で最低限の条件を満たすものである。但し、正規の資格につながるものではない。

カテゴリーII(B)

  • このコースは希望者の過去の教育歴や経験によって、内容や期間が大幅に異なる。
    このコースを修了するときには、学生はカイロプラクティックの学士レベルという条件で、パートタイムの学習を通して安全で基本的なカイロプラクティクケアを提供するための十分な知識と技術を修得する。但しこのコースは正規の資格につながるものではない。

WHOの教育ガイドラインにおけるカテゴリー別の修業期間、教育総時間数、臨床教育総時間数、はカテゴリーⅠでは、修業期間は全日制で4年、対面教育時間数4200時間以上、また臨床教育時間数は1000時間以上の教育時間数となっており、対象国はアメリカイギリス、カナダ等の先進諸国となっている。

方法

この度、このWHOガイドラインの教育基準と現在の日本国内のカイロプラクティック教育レベルとの比較を行った。
そのための調査方法として、今回は現在日本で行われていると思われるカイロプラクティック教育を、NTTの提供するタウンページのインターネット版、インターネットiタウンページ(以下iタウンページと言う)を利用して、2012年8月29日現在にインターネットにカイロプラクティック教育のホームページや、サイトとして登録されているカイロプラクティック教育についてヒットしたデータをすべてリストアップし調査した。
調査手順としてはまず、iタウンページにてカイロプラクティックをキーワード入力し、リストアップされたデータから、更に都道府県を選択し、都道府県ごとに学校、学院、スクール等を表記している施設をすべてリストアップし、リストアップした施設から、1施設ごとに入学案内や資料を取り寄せて、教育機関の種類(大学、専修・専門学校、私塾)時間数、科目数、修業期間等をWHOガイドラインの国際教育基準と比較し、その差異を明確にした。

調査方法

*(この調査はANCA独自の研究であって日本国内でカイロプラクティックを行う者として、公平な立場で調査研究したものである。)

結果

検索結果、カイロプラクティック入力でヒットした件数は、検索総件数11、169件あった。次に都道府県ごとに検索したデータの中から学校、スクール、カレッジ、学院、アカデミーなどを入力しヒットした件数を精査すると189件であった。189件の中で教育機関として表記してあるものは102件あった。
その102件の中から入学案内や教育内容資料などを取り寄せ、または電話で問い合わせするなどして調査した結果、カイロプラクティックの教育としてのカリキュラムが明確に公表されている施設はわずか9件であった。また102件の中には電話で問い合わせすると口伝のみでしか伝授できないと言った教育者がいたのも事実である。

結果

その9施設の資料から、教育カリキュラムをWHOガイドライン教育基準と比較するマトリクス表を作成し、精査した結果、WHOガイドラインに準拠した教育を行っているカイロプラクター養成施設は9施設のうち1施設のみであった。
その他の施設は、時間数、科目数、修業期間の何れかにおいて、またそのすべてにおいてWHOガイドライン教育基準を満たしていなかった。
しかし、その基準をクリアーしている国際基準準拠施設も日本の大学教育機関の所管するカイロプラクティック施設ではなかった。

結果2
以上のように、日本にはWHOガイドラインに準拠したカイロプラクター養成施設は1箇所存在した。しかし現在カイロプラクティックは日本国内では公的資格や、国家資格ではない。したがって、カイロプラクティック施術における安全を保証する公的機関もない。その結果が今回の独立行政法人国民生活センターの危害報告となって報告されているのである。

考察

今回の調査方法は、あくまでもインターネット検索という方法論での調査結果であって当然それ以外の調査方法もあり得る。したがって研究においての限界があり得ることを承諾頂きたい。
今回の調査結果においては、日本にはWHOガイドラインに準拠したカイロプラクター養成施設は1箇所存在した。しかしそれは日本国の大学教育ではない。この現実はカイロプラクティック先進国から見れば、法制化されていない日本のカイロプラクティックは、日本での唯一WHO教育基準準拠のその養成施設も私塾同然であろう。
世界各国においては先進諸国及び40数カ国もの国や地域において、カイロプラクティックは法制化され、公式な大学の学位が確立されている中、日本のカイロプラクティック教育においては未だ無法状態であり、開発途上国以下であると言える。
そしてなによりも今、カイロプラクティックがより良い医療サービスとして国民に提供できる限られた医療資源として、少なくとも患者を守るための安全性、有効性、経済性を担保するために、日本には早急なカイロプラクティックの法制度の整備と、教育制度の充実が切望される。日本にはカイロプラクティックを管轄する機関や、法律がないことが第一の問題点であると考察する。

結語

今後の日本において、カイロプラクティックがより良い医療サービスとして国民に提供できる限られた医療資源として、少なくとも患者を守るための安全性、有効性、経済性を担保するために、日本には早急なカイロプラクティックの法制度の整備と、教育制度の充実が切望される。

参考文献

背景
  1. 平成24年8月2日発表 独立行政法人国民生活センター報道発表資料
  2. 厚生省 平成2年度 厚生科学研究「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」報告書
  3. 日本カイロプラクターズ協会2006年発行「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」
本論
  1. 平成24年8月2日発表 独立行政法人国民生活センター報道発表資料
  2. 日本カイロプラクターズ協会2006年発行「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」

© 2012 All Nippon Chiropractic Association

カイロプラクティックの介入による神経反応変化の可能性

社)全日本カイロプラクティック学会
吉野俊司 森田全紀 松本吉正 山崎善秀

背景

カイロプラクティックは筋骨格系の問題だけではなく、椎間孔から出ている脊髄神経の障害改善も目的としている。

目的

カイロプラクティックの介入による神経反応変化の可能性を探る事。

方法

研究目的に利用することの了承を得た当院利用者100名分(2011年2月19日~2012年5月12日)の初回スクリーニング検査(可動域・整形外科テスト・神経学的テスト)を行った検査(施術)記録を使用した。神経に対する検査では、頸部の神経(C5~T1)、腰部の神経(L3~S1)までを対象に神経学的テスト(皮膚感覚・腱反射・筋力テスト)に反応が出た73名から、各神経・各検査項目それぞれ1項目を1件とし抽出した。検査はカイロプラクティック施術を行う前に陽性反応が出たものを施術後に再検査し、変化の有無を調べた。変化の種類としては、陰性変化・左右の感覚差減少・変化無し・左右の感覚差拡大の4種類とした。

結果

施術前に行った神経学的テストの陽性反応は118件。その中で陰性に変化したものは92件78%、左右の感覚差が減少した例は13件11%、変化無しは13件11%となっている。左右差が拡大した例はみられなかった。カイロプラクティック施術による神経反応の変化が90%弱あった。

考察

左右差の拡大が無かったことは、椎間関節が可動域の回復によって、歪みによる脊髄神経への障害が、カイロプラクティック施術によって無くなったという推察も可能と思われる。このことからカイロプラクティックは、神経障害を改善する可能が考えられる。今後の課題として、本調査では体性神経への介入であったが、自律神経への変化を通じて利用者の自覚症状改善が期待できる可能性があると考えられる。

結語

カイロプラクティックによって神経反応が変化する可能性が示唆された。