(社)全日本カイロプラクティック学会(ANCA)
山崎善秀 長尾正博 松本清香 吉野俊司

【背景】

平成24年8月、独立行政法人国民生活センターより「手技による医業類似行為の危害」が発表された。その内容は「健康保持や疾病の予防・治療の目的で、マッサージ、指圧、整体、カイロプラクティックなど、施術者の手技による医業類似行為が広く利用されている」と前置きした上で「整体やマッサージ等、器具を使用しない手技による医業類似行為を受けて危害が発生したという相談が2007年以降の約5年間で825件寄せられており、件数は増加傾向にある」「手技による医業類似行為のうち、あん摩マッサージ指圧や柔道整復については法的な資格制度があるが、整体やカイロプラクティック等と呼ばれるその他の手技による医業類似行為については法的資格制度がないため、施術者の技術水準や施術方法等がばらばらである」(以上、国民生活センター発表の内容より抜粋)というものであった。
アメリカ発祥のカイロプラクティックは1895年にD.D.パーマーが創始して以来100年あまりの間に急速に世界中で普及されている。
一方、日本においては1916年に川口三郎氏によって紹介されて以来全国に普及しており、現在に至るまで施術者の数は2万人から3万人あるいはそれ以上とも言われている。しかし一世紀も経とうかとする2012年現在においても、日本では法制化(国家資格化)に至っていない。国内に数百あるとも言われる団体が玉石混交の状態であり、各団体の教育レベルも様々である。業界の統一及び教育スタンダードの確立がされていないのが現状である。

【目的】

カイロプラクティックが国家資格化されている海外の国とされていない日本との違いは何かを養成機関の種類、科目数、時間数について海外と日本の差異を検証することとした。

【方法】

海外に関しては、WHO関連団体であるWFCのホームページに掲載されている国別におけるカイロプラクティックの法的地位及びカイロプラクティック養成機関の中で、国家資格として認められている国の中から選択し、科目数や時間数について調査をした。
日本に関しては、iタウンページ(NTTが提供するインターネット版タウンページ2012年8月29日)に掲載されているカイロプラクター養成機関より取り寄せた資料を基に、養成機関の種類(大学、専修、専門学校、私塾)や科目数がWHOガイドラインの内容に準拠しているカイロプラクター養成機関を調査し、教育の現状を確認した。

【結果】

〈国別カイロプラクティックの法的地位…94か国〉
世界保健機関(以下WHO)の下部組織である世界カイロプラクティック連合(以下WFC)によると、2012年現在、法制化されている国(法的に基づき許可されている)が48か国にもなり、法制化はされていないが認知されている国の35か国を含めると、実に80か国以上でカイロプラクティックという医療が着実に広がり、受け入れられている。他にも、法制化されているかは不明だが認知されている国が9か国、法制化されているかは不明であり、訴訟の危険性がある国が2か国あると報告されている。

a.法制化されている国(法に基づき許可されている)… 48か国
ボツワナ、レソト王国、ナミビア、ナイジェリア、南アフリカ共和国、スイス、ベルギー、ジンバブエ、デンマーク、フィンランド、フランス、アイスランド、イタリア、マルタ、リヒテンシュタイン、ノルウェー、ポルトガル、セルビア、スウェーデン、イギリス、スワジランド王国、香港、フィリピン、タイ、キプロス、イラン、イスラエル、ボリビア、バハマ、バルバドス、カナダ、ケイマン諸島、リーワード諸島、パナマ、プエルトリコ、タークスカイコス諸島、アメリカ、オーストラリア、グアム、ニュージーランド、タヒチ、カタール、メキシコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、コスタリカ、グアテマラ、ニューカレドニア
b.法制化はされていないが認知されている国… 35か国
エチオピア、ガーナ、ケニア、モーリシャス、日本、マレーシア、シンガポール、エジプト、ジョルダン、クロアチア、エストニア、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルグ、オランダ、ロシア連邦、スロバキア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ベリーズ、バミューダ、英バージン諸島、ジャマイカ、米バージン諸島、トリニダード・トバコ、レバノン、パプアニューギニア、コロンビア、エクアドル、ホンジュラス、ペルー、ベネズエラ、フィジー、リビア
c.法制化されているかは不明だが認知されている国… 9か国
中国、インドネシア、ベトナム、ギリシャ、ハンガリー、スペイン、モロッコ、シリア、トルコ
d.法制化されているかは不明であり、訴訟の危険性がある国… 2か国
台湾、韓国

*世界カイロプラクティック連合(WFC)ホームページより

〈国別カイロプラクティック養成機関の科目数及び時間数〉
学校別時間数
【WHOガイドラインを満たした養成機関のある国…15か国(41校)】
世界地図国別

<オセアニア>
・Australia(オーストラリア 3校)
Macquarie University マッコーリ大学
RMIT University RMIT大学
Murdoch University マードック大学
・New Zealand(ニュージーランド 1校)
New Zealand College of Chiropractic ニュージーランド・カレッジ・ オブ・カイロプラクティック
<アジア>
・Japan(日本 1校)
Tokyo College of Chiropractic 東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック
・South Korea(韓国 1校)
Hanseo University ハンソ大学
・Malaysia(マレーシア 1校)
International Medical University 国際医科大学
<ヨーロッパ>
・United Kingdom(英国 3校)
Anglo-Europian College of Chiropractic アングロヨーロピアン・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
McTimoney Chiropractic College マクティモニー・カイロプラクティック・カレッジ
University of Glamorgan グラモーガン大学
・Spain(スペイン 2校)
Barcelona College of Chiropractic バルセロナ・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
RCU Escorial Maria Christina マリアクリスティーナ王立中央大学
・France(フランス 1校)
Institut Franco-Europeen de Chiropratique フランコヨーロピアン・カイロプラクティック・インスティテュート
・Denmark(デンマーク 1校)
University of Southem Denmark 南デンマーク大学
・Switzerland(スイス 1校)
Universitat Zurich チューリッヒ大学
<アフリカ>
・South Africa(南アフリカ 2校)
University of Johannesburg
ヨハネスブルグ大学 Durban University of Technology
ダーバン工科大学
<北アメリカ>
・United States(アメリカ 18校)
Cleveland Chiropractic College クリーブランド・カイロプラクティック・カレッジ
Los Angeles Campus ロサンゼルス校
Kansas City Campus カンザスシティ校
D’Youville College デュービル・カレッジ
Life Chiropractic College West ライフ・カイロプラクティック・カレッジウエスト校
Life University ライフ大学
Logan College of Chiropractic ローガン・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
National University of Health Sciences ナショナル健康科学大学
New York Chiropractic College ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ
Northwestern Health Science University ノースウエスタン健康科学大学
Palmer College of Chiropractic パーマー・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
Davenport Campus ダベンポート校
Florida Campus フロリダ校
West Campus ウエスト校
Parker University パーカー大学
Sherman College of Chiropractic シャーマン・カレッジ・オブ・カイロプラクティック
Southern California University of Health Sciences 南カリフォルニア健康科学大学
Texas Chiropractic College テキサス・カイロプラクティック・カレッジ
University of Bridgeport ブリッジポート大学
University of Western States ウエスタンステーツ大学
・Canada(カナダ 2校)
Canadian Memorial Chiropractic College カナディアン・メモリアル・カイロプラクティック・カレッジ
Universite du Quebec a Trois-Rivieres ケベック大学トロイリヴィエール校
<南アメリカ>
・Brazil(ブラジル 2校)
Centro Universitario Feevale フィバーレセントラル大学
Universidade Anhembi Morumbi アンヘンビモルンビー大学
・Mexico(メキシコ 2校)
Universidad Estatal del Valle de Ecatepec エカテベックバリー国立大学
Universidad Estatal del Valle de Toluca トルーカバリー国立大学

*世界カイロプラクティック連合(WFC)HPより

海外の国々ではカイロプラクティックは法制化されており、各々が自国の教育スタ ンダードを有し、それがWHOガイドラインを満たした大学教育となっている。

〈日本におけるカイロプラクティック教育の現状〉

そこで、日本におけるカイロプラクティックの教育レベル(2012年全日本カイロプラクティック学会(ANCA)により発表)を踏まえ、iタウンページを “カイロプラクティック”で検索した結果11,169件の内、学校・スクール・カレッジ・学院・アカデミーを謳っている件数は189件あった。その内、教育機関として表記されている件数は102件であり、その中でも教育カリキュラムが明確に公表されている施設は9件であった。
WHOは2005年に「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン(以下WHOガイドライン)」を作成し教育基準を示している。
日本国内で基準をほぼ満たし、カイロプラクティック教育審議会(以下CCE)の認定を受けているのは1箇所である。
国内教育機関
県別教育機関数
しかし、日本ではカイロプラクティックを大学教育として行っているところは1校も存在しなかった。
今後、WHOガイドラインの要求する条件を満たしていない養成機関は追加教育により不足を補う必要がある。

【考察】

先進国を始めとして、海外の国々ではカイロプラクティックは法制化されており、各々が自国の教育スタンダードを有し、それがWHOガイドラインを満たした大学教育となっている。
一方、日本ではWHOガイドラインに準拠した養成機関は1箇所である。しかし、日本の教育法に基づく専修学校及び大学教育設置基準を満たすものではなかった。この点が日本においてカイロプラクティックが医療資源として検討され難い要因の一つであるとも考えられる。

【結語】

日本でカイロプラクティックが医療資源として検討されるためには、カイロプラクティックの養成機関は、WHOガイドラインの基準に準拠するようにカリキュラムの内容や時間数の充実だけではなく、専修学校及び大学教育設置基準を満たすことが必要であると考えられる。

【参考資料】

(1)独立行政法人 国民生活センター http://www.kokusen.go.jp/news/news.html
(2)世界カイロプラクティック連合(WFC)http://www.wfc.org/
(3)「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」  2006年 世界保健機関(WHO)発行

© 2012 All Nippon Chiropractic Association